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高校生日記・01 [■旅行記]

東京の某高校に入学し、最初の夏休みが始まって間もないある日、オイラは深夜の東京駅のホームに立っていた。

大きなスポーツバッグを1つ持って。

行き先は沖縄の与那国島。

オイラのヒコーキ趣味を知る人からすれば、

沖縄に行くのに何故に深夜の東京駅? と訝しがるだろう。

その理由を説明するためには、大分時間を遡らねばならない。

  画像 006.png

 

オイラのヒコーキ好きは、小1の時に乗った、ヒコーキの強烈な印象に端を発している。

日常生活ではまず経験することのないあの不思議な三次元の加速度感、それに音。

決定的だったのは、たまたま割り振られた座席から見た光景だった。

主翼がよく見える席で、

離着陸時に形を変える様がいつまでも脳裏に焼き付いて離れず、

あの時見た翼の変化する様子は、今でも数年に一度の周期で夢に見る。 

それ以来、重度のヒコーキ症候群に罹ってしまい、現在に至る。

症状は酷くなる一方だ。

 

そんなオイラだが、実は一時期浮気をしていたことがある。

小1~小5まで沖縄で暮らしていたオイラが再び東京に戻って来て、

毎日眺めることが出来る電車にすっかりやられてしまったのだ。

今と違ってネットもない。自分の自由になる時間もお金も限られている。

外界から得られるものは非常に限られており、東京と言っても、埼玉との県境に住んでいたオイラにとって、

羽田はおいそれと行ける場所ではなかった。

せいぜい旅行パンフレットから切り抜いたヒコーキの写真が宝物というレベルだった。

 

そんなオイラにとって、電車は非常に身近なカッコイイものだった。

電車は自宅の窓からいつでも眺めることが出来、10分も歩けば駅まで行ける。

駅前まで行き、踏切のところでいつまでもいつまでも電車を眺めていた。

自宅近くの線路ではなく、わざわざ駅まで行くのにはちゃんと理由があり、

当時のオイラにとって、駅に入る電車のブレーキが焼ける甘い匂いを嗅ぐことは最高にヘブンなひと時だったのだ。

変質者と疑われてもやむを得ないほど鼻腔から盛んに空気の出し入れを繰り返し、

それでは物足りぬとばかり、袋につめて持ち帰り、こっそり自宅で吸引しようかと、

使用する袋の材質選定について真剣に考慮したほどであった。

ある意味最先端を行っていたのだと自負している。

ところが、ひょんな出来事から鉄道趣味の王道に興味の対象が移ることになる。

鉄道だけに路線変更だ(うまいこといった)。

 

ある日、共同のゴミ捨て場にて一冊の電話帳のようなものを発見する。

縛られているわけでもなく、一冊だけポンと置かれたその本には、表紙に鉄道が映っていた。 

早速自分の部屋に持ち帰り、ペラペラとページをめくった。

どのページも細かい数字の羅列。 

時刻表というものの存在をこの時初めて知った。 

これを使えば、今全国のあらゆる鉄道がどんな動きをしているかが分かるのだ。 

 

それからというもの、オイラはすっかり時刻表の魅力の虜になった。

それまでのオイラにとって、電車とは自宅の前を走るものでしかなかったが、

この時から一気にその世界が広がり、脳内で全国を駆け巡ることが出来るようになったのだ。

暇さえあれば全国あちこちに様々な条件をつけて旅行をし、

鈍行で行く場合と、特急を使う場合で時間や金額にどんな差が出るかを調べた。

時刻表ファンの例に漏れず、一筆書き、全国一周、全線乗りつぶしといった

シミュレーションを一体何度繰り返したことか。 

もっとも、「時刻表ファン」なるものが存在することも、

一筆書きなどの遊びがその世界ではありふれたものであることも、

知ったのはかなり後になってからで、みんな考えることは一緒だなぁ、と思ったのだった。 

 

中学に入り、机上旅行部に入った。

特にオイラが興味を持ったのは、ローカル線。

暗くて地味な中学生だった。

運行本数の少ない路線を見ると、頭の中には勝手にイメージが浮かび上がる。

 

北国の寂れた漁港が点在する海岸沿いを走る古い車両

緑深い山間を縫うように細く伸びる線路

 

赤く錆びたレールとささくれた枕木にゾクゾクし、草のはえた薄暗い片側だけのホームにときめき、

夕暮れの中、ゆっくりと走る一両だけのディーゼルカーの姿には目眩を覚え、失神すら覚悟した。

自宅で1人、時刻表と時計を見ながら、「今ボロボロの列車が無人の寂しいホームについたのだなぁ」

などと勝手に盛り上がり、

「ああ、今日もまたこの駅で降りる人は誰もいない。でも頑張って走り続けて欲しい!」

などと、勝手にその路線は余命幾許も無いものと決め付けて心配し、応援していたのである。

完全にイッてしまっていた。

 

ホームの花壇の花がすべて枯れたりとか、駅の窓が割れたりとか、

オイラのはた迷惑な妄想が実際に何某かの悪影響を及ぼしていなかったか、今でも心配だ。

中2、中3とオイラの鉄道熱はますます高まり、沿線の本線支線全駅の入場券を集めたり、

某鉄道作家に迷惑メールを出したり、ロマンスカーの運転手、車掌にサインをねだったり、

いろいろやった挙句の果てにオイラは鉄道会社設立に手を出した。

地図上に架空の路線を引き、駅を設定し、ダイヤを引き、各駅ごとの時刻表をつくり、車両のデザインもした。

メカデザインの得意な友人がいたので、おおまかなコンセプトを伝え、デザインの依頼をした。

アウトソーシングの先駆けである。

出来上がったデザインには偉そうに駄目出しまでしていた。

何様か。

 

甚だ長くなってしまったが、沖縄の与那国が実家の父から、

「高校に入ったら、一度与那国を見てきたらどうだ」と言われた時、

そんなオイラが普通にヒコーキを使うとしたら、むしろ不自然であろう。

鹿児島まで鈍行を乗り継ぎ、そこから先は船に乗ろう。

そう考えたのは、オイラの日頃の素行からいって、水が高きから低きに流れるが如く、実に自然なことであった。

そんな訳で、沖縄に行くために深夜の東京駅のホームに立っていたのである。

 

(続く)


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コメント 26

いっぷく

おもしろい!実におもしろいです。
そんな気になるのが少しはわかります。
ロンドンからパリに行くのにわざわざ電車とフェリーで一日かけて行った
ことありますが、一番印象に残るパリ行きでした。

by いっぷく (2008-05-24 10:43) 

コスト

おもしろい!!スラスラ読めます^^
>重度のヒコーキ症候群  そうです、僕も初めて乗ったフライトでの「あの不思議な三次元の加速度感」や、自分の家や町が小さく点になって山を軽々越えるのに俺も魅了されました!

>最高にヘブンなひと時 これが見つけられるかで人生は大きく変わりますよね。言い方も面白いです^^

鉄道へのうわきもけっこう重症だったんですねw某鉄道作家って川島怜三さんでしょうか?
文章が実にいいです。nice!×2
by コスト (2008-05-24 10:59) 

tooshiba

とりさんの秘められた過去!すげえ!すげえよ!
ゾクゾクしますね。(≧▽≦)

それだけの筋金入りの方を相手に日ごろのハンチクなヲタっぷり。
恥ずかしくなってきますた。(´・ω・`)ショボーン

でもいいんだ。
tooshibaはハンチクのままで押し通すんだ。(`・ω・´)シャキーン
by tooshiba (2008-05-24 12:00) 

カンクリ

とりさんの過去”が紐解かれるノンフィクション・・。
あぁ~、ワクワクして参りました♪
by カンクリ (2008-05-24 12:32) 

夢空

なるほどぉ、そのような過去があって、、現在(^_^.)
続きが楽しみです~☆
by 夢空 (2008-05-24 14:51) 

こけもも:

読ませるね~、続きが楽しみです。

by こけもも: (2008-05-24 17:39) 

Tripleseven

とても浮気のレベルではないですね。
本命の彼女と遠距離交際になり、寂しさから身近にいた別の女性と恋に落ち、
気がついたら身近にいた女性が本命になっていた、というレベルに見えますが…
これで浮気のレベルだとしたら、本命のヒコーキに対するマニア度は…

内容は凄く濃ゆ~いのですが、何故かスイスイ読めてしまう自分がいます…(^^;
by Tripleseven (2008-05-24 22:33) 

ハイマン

いいね~こう言う旅!!!
楽しみだぞ!!!
by ハイマン (2008-05-24 23:28) 

miffy

飛行機だけでなく鉄道も好きだったんですね~
好きなものはとことん追求し研究しつくす、素晴らしいです~
どんな旅になったのか続きが楽しみです^^

by miffy (2008-05-25 00:01) 

an-kazu

高校の時の友人で、時刻表の数字を数えて、
新聞に載ったヤツがいます(写真付きで)。


ところで・・・
ノートをスキャンして、掲載するというのは
どうでしょう?
by an-kazu (2008-05-25 00:16) 

アスランマリオ

ナント筋金入りのテツヲタだったのね(笑)
突き詰めるととことんまで行ってしまう、正にとりさんワ-ルド!
鈍行だからム-ンライト?ただのの普通列車?
続きが楽しみだ。
by アスランマリオ (2008-05-25 00:24) 

masa

とりさんは鉄道に興味があった時期があったのですね。
私も飛行機は大好きですが、なんせ見る機会も乗る機会も
あまりありません。やはり、電車の方が身近なもので
親しみがありますよ。
by masa (2008-05-25 07:23) 

とり

皆様 コメント、nice! ありがとうございます。

■鉄道美術館館長♪さん
nice! ありがとうございます。

■いっぷくさん
>電車とフェリー
確かに強く印象に残りそうです。
海外でそういうことができるのはすごいですね。
羨ましいです^^

■Krauseさん
nice! ありがとうございます。

■コストさん
>最高にヘブンなひと時
コストさんの場合はやっぱり水中でしょうか^^
>某鉄道作家
種村直樹一筋でした。
次回以降、完全に「夏休み日記」になりますので、もっと地味になりますよ。
TBありがとうございました。

■tooshibaさん
>ハンチク
いえいえ、オイラは鉄道に熱を上げてた時でさえ、tooshibaさんみたく車両形式はさっぱりでしたから。最新情報にも疎かったですし。
次回オイラの鉄道熱が浅いものであることが明らかになります。

■カンクリさん
次回以降、もっと無難な内容になりますので^^
今回は飛ばし過ぎました^^;

■夢空さん
「現在」 の後が途切れておりますが・・・^^;
まぁ、そういうことです(o ̄∇ ̄o)ニヤ

■赤と青さん
nice! ありがとうございます。

■こけもも:さん
次回からもっと大人しくなります~^^

■monさん
nice! ありがとうございます。

■xml_xslさん
nice! ありがとうございます。

■Triplesevenさん
オイラ、おこちゃまだからそういうことはよくわかんないや~^^;

■ハイマンさん
ありがとうございます。
そう言ってもらえると嬉しいです^^

■miffyさん
1つ始めると、周りが見えなくなります^^;

■an-kazuさん
>時刻表の数字
す、すごい!(@Д@)
一体どんな桁数になったんでしょう? 想像もつきません。
>スキャン
アハハ、そうやると楽でいいんですけどね~。
誤字脱字、稚拙な内容で恥ずかしいということもさることながら、
若気の至りでちょっと不穏当な表現があり、不特定多数の方に公開すると、絶対傷ついたり、激怒する人が出ます。ご容赦を^^
次回、ほんのちょっとだけ出しますので~。

■アスランマリオさん
師匠のように写真はまったくといっていいほどやりませんでした。
主に机上旅行とキップ集めくらいですね。
>鈍行だから
す、すごい!流石です師匠!
続きをご覧くださいませ^^
by とり (2008-05-25 07:28) 

とり

masaさん
masaさんはよく鉄道を上手に活用されてますよね。
>身近なもので親しみ
分かります。オイラにとってもヒコーキは未だ高嶺の花です。
by とり (2008-05-25 07:32) 

野原橋

これは、よくわかります。私も似たようなことをしていたことがあります。
山の中育ちだから、時刻表を見ていると、いろいろなところに自由自在にいけるような気がしていました。

by 野原橋 (2008-05-25 10:56) 

Qoo

とりさん、バカ受けです(^O^)
鉄道関係に勤務している身ですのでマニアは沢山見ますが
みんなそんな事を考えてるのでしょうかね~(^O^)
メチャ楽しく拝見しました
そうそう、あの時刻表って慣れないと結構難しいよね


by Qoo (2008-05-25 11:16) 

くず

∑( ̄□ ̄;)ガーン!!
海ノ口駅の元祖ツインズ桜が枯れたのは、とりさんの妄想のせいだったのか! ( >Д<;)コノヤロー

by くず (2008-05-25 16:51) 

sak

素敵ですね♪
鹿児島まで列車...そしてお船...ほんとうに素敵な旅
何日かかるのかなぁ?

>電車のブレーキが焼ける甘い匂い
私も好きだったかも(^^;
by sak (2008-05-25 22:01) 

ひろ茶

とりさんの背後にサングラスをかけたお昼の番組司会者が
見えてくるのは気のせいでしょうか…www

by ひろ茶 (2008-05-25 22:34) 

北宇のピューマ

なんと!とりさんは「元テツ」だったんですね。そういう私もやはり鉄道に浮気していた過去があります。
しかも「乗りテツ」「音テツ」ならぬ「匂いテツ」だったとは・・・ 確かにヘブンですね ^_^;

私も現在はちゃんと本業のヒコーキの方に戻っていますが、今でも列車を見れば型式が分かりますし、旅行の日程の中に列車移動をあえて組み込んだりしています。
先月も飛行機旅行で四国・九州に行き、帰りは熊本から「はやぶさ」で帰って来ました。こうして多方面から旅行を楽しめるのは、我々のような経歴を持つ輩の特権みたいな物でしょうか?

与那国島への鈍行の旅。続きが楽しみです!

by 北宇のピューマ (2008-05-25 23:34) 

pica

私も続きに期待します!
スヌーピーのノートが何となく古めかしくて(誉めてます・汗)
良い感じですね。
by pica (2008-05-26 01:25) 

とり

■野原橋さん
おお、野原橋さんも!(・∀・)人(・∀・)ナカーマ!!

■takemoviesさん
nice! ありがとうございます。

■岸田法眼さん
nice! ありがとうございます。

■ぴーすけ君さん
nice! ありがとうございます。

■Qooさん
Qooさんは鉄道関係者でしたか!
次の記事見ても怒らないでくださいね^^;
時刻表、慣れるまで難しかったです。

■くずさん
オイラの妨害電波はそっちに飛んでいたんですね?(^-^ゞ

■さちこさん
nice! ありがとうございます。

■sakさん
ブレーキの匂い、当時のオイラは、無条件で全ての人が好きなのだと思い込んでました^^;

■ひろ茶さん
えっと、タモリさんですか?
何故??

■北宇のピューマさん
北宇のピューマさんも似たような経歴なんですね~。
>「匂いテツ」
危険ですのでよい子のみんなはマネしないでね!

■picaさん
既に黄色くなってマス^^;
by とり (2008-05-26 06:55) 

ジョルノ飛曹長

零戦の撃墜王の故.坂井三郎氏の幼少の頃みたいですねー。
彼も子供の頃に飛行機(水上機)を観に行って、とりさんと同じような衝撃を受けて、予科練に進み搭乗員になったんです。(^_^)
by ジョルノ飛曹長 (2008-05-26 19:30) 

OILMAN

こんにちは。
コメント遅くなりましたが、面白いお話を読ませて頂きました。
鉄道好きでありながら最近はやぶさに乗った私なんかとは違い、まさに本物っす!
次、読ませて頂きます!!
by OILMAN (2008-05-26 21:24) 

とり

■hiro78さん
nice! ありがとうございます。

■ジョルノ飛曹長殿
>故.坂井三郎氏
そんなきっかけがあったのですねー。

■OILMANさん こんにちは。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
次を読むと、「なーんだ」ってなりますよ^^;
by とり (2008-05-26 21:55) 

とり

こいしさん
nice! ありがとうございます。
by とり (2008-05-29 19:23) 

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