ジャンボのエンジンが倍になったら・2 [├クイズ]
先週こんなクイズを出させていただきました。
Q:ジャンボのジェットエンジンを倍の8コに増やし、全開にしたとします。従来機と比較して最大速度はどうなるでしょうか?三択です。
A:すんごく早くなる B:あんまし変わらない C:遅くなる
以前、「出力は速度の三乗に比例する」■ という記事を書きました。
記事の中で書いたゼロ戦のエンジン換装にはこの公式がきっちりとあてはまりました。
今回のクイズにこの公式をあてはめますれば、
エンジンを倍にしたジャンボは26%の増速(1.26×1.26×1.26=2.00)となるのですが、
残念ながら今回の問題にはこの公式はあてはまりません。
なぜかといいますと…実はこれ、まずはジャンボのエンジンのしくみから話を始めなければなりません。
…と書いた時点でターボファンエンジンのしくみをご存知の方はピンと来たと思います。
その場合は、下の方に青の太文字で正解が書いてありますのでご確認くださいませ。
■ ■ ■ ■ ■ ■
ジェットエンジンの原理は自動車用のエンジンと同じで、
「圧縮した空気に燃料を加えて火をつけると、激しく燃焼する」
というものです。
自動車の場合、この爆発の勢いを回転運動に変えてタイヤを回しますが、
ジェットエンジンの場合は激しい燃焼を排気ノズルから吹き出し、その反動を利用しています。
ジェットエンジンのしくみが知りたいと思われた方は、こちらに分かり易いアニメーションがありました。
HONDA/エンジンの仕組み■
ところでこの排気ガス、ものすごく細くて早いです。
「早くて結構じゃあないか」
と思うかもしれませんが、実はそう結構なことでもないです。
手漕ぎボートをこいだことあるでしょうか?
…え?
ありませんか?
そうですか…。
(無視して)あのボートに例えるなら、ちょうどオールの代わりに竹ざおで一生懸命漕ぐのに似ています。
いえ、オイラも竹ざおで漕いだことはないです。
でもオールを使う時と比べて、すごく軽く、早く漕げそうだというのはすぐ想像がつきます。
そして、肝心のボートはちっとも進まなさそうなのもすぐに想像がつきますよね?
竹ざおをどんなに早く動かせても、水をうまくとらえられず、空回り(水回り?)してしまいます。
ではどうするか?
やはりオールを使った方がしっかりと水をとらえることができます。
オールは重くてゆっくりとしか動かせませんが、結果的には竹ざおを使う時と比べて早くボートを動かすことができます。
ジャンボのエンジンもこれと理屈は同じで、排気ノズルから出てくるガスは細くて高速で、空回りしてしまいます。
ではどうするか?
太くてゆっくりにしてやればよいことになります。
それをするのが、よく目立つあの大きなファンです。
これはジャンボのエンジンなんですが、筒の中に大きなファンがありますよね?
コレがそうです。
排気ノズルから出てくるガスと比較して、
このファンを回して発生する風の流れは、ゆっくりですが大量の空気を動かすことができます。
そして、飛行速度と排気速度の差が少ないほど、効率よくヒコーキを飛ばすことができます。
写真のエンジンはCF6というエンジンなんですが、
ファンによって加速された空気のほとんどは圧縮機に送られず、そのまま推力として利用されます。
ファンの中央に大きな目玉のようなものがありますが、この周辺の空気だけが圧縮され、燃焼室に入ります。
燃焼室に入っていく空気は全体のたった2割弱です。
残りの8割強の空気によって、推力全体の約75%を発生させています。
ファンで発生させる推力の割合がこれだけ大きいと、
もはやエンジン部分は「ファンを回すための装置」とでも表現した方がしっくりくるくらいです。
そうなんです、実はある意味、ジャンボはプロペラ機だったのです。
プロペラで出せる速度には限界があります。
そういうしくみのジャンボのエンジンをどんなにたくさん取り付けたところで、得られる効果は限られています。
「面白いほどよくわかる飛行機のしくみ」という本の103pに、
ジャンボで使用しているCF6-80Cエンジンのエンジン全開時の具体的な数字が出ていました。
この本によれば、ファンの噴出速度が1,080km/hであるのに対し、
排気ノズルの噴出速度は、1,368km/h とあります。
ジャンボの巡航速度は918km/h(マッハ0.85)なので、ファンの噴出速度1,080km/hにかなり近いですね。
推力全体の約75%に相当する大量の空気を巡航速度に近いゆっくりした速度で噴出することにより、
燃費効率を高めている。
ということなのですが、エンジン全開にしても、推力のほとんどは1,080km/hですから、
エンジンの数を倍にして全開に吹かしたところで、それに見合った速度向上は望めないのです。
ということで正解は
B:あんまし変わらない
でした。
実は、ジャンボにエンジンをたくさんつけても効果がない理由として更にもう1つ、「揚抗比」というのがあります。
「揚抗比」について結論だけ言いますと、
ジャンボは最大巡航速度のマッハ0.85を越えると、急激に抗力が増加してしまいます。
マッハ0.85までは、出力を増やせばそれに見合っただけのスピードアップができるのですが、
マッハ0.85から先は、どれだけエンジンをフカしても、まるで巨大な力で押さえ込まれているように、
ほとんど速度は上がらないという状態になってしまいます。
それから最後にもう1つ、「最大限界運用速度」というのがあり、
ジャンボは最大巡航速度を超えるとすぐにこの速度に達してしまいます。
この速度を超えると、飛行が不安定になったり、機体構造に損傷を与えたりという危険が生じるため、
やっぱりすんごく早く飛ぶというのは無理なのでした。
このようにジャンボは、プロペラのエンジンと、マッハ0.85で急激に抗力が増大する特性の翼、
いろいろ不都合の出る構造をしており、どうあがいても速度の増加はほとんど見込めないのです。
今回もへんてこクイズに大勢の方がお付き合いくださった上に、推理を働かせていろいろなコメントを頂きました。
本当にありがとうございます。
コメントで1番多かったのが、「エンジンをたくさん付けた事による重量増加」でした。
ジャンボ用のエンジンの重さをいろいろ探したのですが、残念ながら見つけられませんでした。
その代わり、B787用の「トレント1000」という、ジャンボ用よりもちょっと力の大きいエンジンの重さは、
1基5.4t でした。
仮にジャンボ用のエンジンの重さが5t だとすると、20t (5t×4発)の重量増となります。
一方、ジャンボの翼には約160t の燃料を入れることができますし、最大離陸重量は約400t です。
重量の増加は確かに速度にとってマイナスに働きますが、全体で考えると、その影響は微々たるものだと思います。
空力悪化、エンジン同士の干渉と書いてくださった方もおられましました。
確かに、エンジン同士の間隔が狭いと、エンジンの造波抵抗(でいいのかな?)同士が干渉し合い、
空気の流れをせき止めるダムのようになりそうな気がします。
B‐52のように2つのエンジンをまとめるとか、An‐225のように間隔を十分に取るとか、
付け方には工夫が必要だと思います。
最後になりますが、ジャンボってなんでこんな制限、限界のあるヒコーキなのかといいますと、
高速飛行に向かないエンジンなのも、翼の特性も、
巡航速度を超えるとすぐにフラついたり壊れそうになったりするのも、すべては
「高空を遷音速で、しかも効率よく」
ということに特化した設計になっているから。ということでした。
やった~
理由はともかく正解だ~
by ハイマン (2007-01-23 00:24)
いつもいつも為になる薀蓄をありがとうございます。
by マリオ・デ・ニ-ロ (2007-01-23 00:42)
ついさっき修学旅行から帰ってきました。何とかスキーも滑れました。いやぁ~しかし、この問題を答えるのは僕はまだ早いのでしょうか?これからの飛行機クイズ全く当たりそうな気配がない・・・。まぁ次は頑張ります!!
by アスキ (2007-01-23 17:28)
正解してましたー よかったー(^_^;
飛行機好きなのにしてなかったらかっこわるいところでした。(汗)
ところで前にちょっと考えたことがあります。
「飛行機の翼についているエンジンを翼端から付け根まで、ズラーっと並べてつけたらどうなるだろう?それはもう翼としての機能を果たさないのではないか?」とこんな感じでした。(^_^)
by ジョルノ (2007-01-23 19:06)
皆様 コメント&nice! ありがとうございます~。
■ハイマンさん
ハイ。正解でした。おめでとうございます。
■アスランマリオさん
いえいえ、思いっきり背伸びして記事書いてますから^^)/
■アスキさん
お疲れ様~。スキー滑れましたか。すごいなぁ。オイラスキー全然駄目↓↓
クイズ、ちょっと今回は難しすぎましたね。(^^;
どんな問題を出すか、いつも悩むところなんですよ。
「747-400に航空機関士は乗っているでしょうか?」みたいなクイズじゃ、つまんないでしょ?
次からは、見たい人だけヒントが見れるようにしようかなぁ、と考えてます。
■ジョルノ飛曹長殿
>かっこわるい
一口にヒコーキファンと言っても、いろいろ分野が分かれますからね。オイラはWWⅠ~Ⅱの頃の軍用機がまったく駄目なんですよ。
実は、数年前まで中島飛行機の存在を知りませんでした。飛曹長殿からすれば、ちょっとあるまじきことですよね。(^^;
そんなですので、飛曹長殿の記事やカキコはすごく新鮮で興味深いです。
>翼端から付け根まで
すごく効率が悪そうです!飛べないかも?
by とり (2007-01-23 22:28)
僕もいちおう正解だったのです。
しかし、ジャンボがプロペラ機とは…
確かに、エンジンのとこでプロペラ回ってますねw
by ひろ茶 (2007-01-24 00:49)
追伸
確かに僕、ジェット気流乱用してますねwww
by ひろ茶 (2007-01-24 01:00)
確かにそうですね、問題が簡単すぎるとつまらないデスよね。申し訳ございませんでした。それからコメントを書くとき、行を次の行に移すときはどうすれば良いのですか?これ分からないです。とりさんも僕のコメント見ずらいと思うので教えてください。
by アスキ (2007-01-24 09:34)
■hirochaさん
正解でした~。
>乱用
「アハハ、またジェット気流だ~」って感じでした☆
■アスキさん
いえいえ、お気になさらずに☆
改行はですね、「Enter」キーを好きなだけ押すがよいです。
by とり (2007-01-24 17:51)
アスキ
アスキ
アスキ
これは練習です(改行の)
by アスキ (2007-01-24 18:20)
アスキさん
できた~!ヽ( ゚∀゚)ノ
by とり (2007-01-24 18:41)
とりさんありがとうございます
ここまで長かった・・・
by アスキ (2007-01-24 21:32)
ジェット機に良く乗りましたが、エンジンが大口径な理由がよく分かりました。
by (2007-01-25 00:51)
■アスキさん
アハハ、よかったよかった。もうこれで大丈夫!(なにが?
■iko4wdさん
そう言ってもらえると嬉しいです^^
by とり (2007-01-25 07:31)
こんばんは^^
最高速度にはあまり手をつけられないとのことみたいですけど、推力が単純に2倍になるってことはその分積載量が増えるってことになりそうだけど(機関車の重連、ご存知ですか?重たい貨物編成や山道を登る際に機関車を連結して引っ張るやつです。あ!あくまでもシロートですよ^^)どうなんでしょうね?量産されないってことはただ単純に採算性の問題なのかもしれませんね。
by まさ (2007-01-25 19:39)
まささん こんばんは^^
ハイハイ。シロートシロート。(爆
オイラそんなこと考えたこともありませんでした。(@Д@)
で、具体的にいろいろ考えてみました。以前、ジャンボのエンジンのうちの1つを777用のエンジンに付け替えて、飛行テストをしたことがあります。
777用エンジンの推力はジャンボ用の倍ありますから、すぐにでもジャンボの推力を倍にすることはできますね。
「推力の増加と離陸重量の変化」は、ほぼ掛け算と思いますので、倍の荷物を運ぶジャンボは簡単に誕生!・・・と思ったのですが、重くなるわけですから、翼面積を増やし、胴体、車輪を含め、あらゆる構造強化が必要です。タイヤの接地圧の関係で、多分あと2~3本は足をニョキニョキ生やさないといけないと思います。
エンジン換装はすぐ済んでも、その後がすごく大変。という感じだと思います。
シロート考えですが^^
そんな力持ちジャンボ、見てみたいです( ´∀`)
by とり (2007-01-25 20:06)
よっしゃ!まずは今年1勝です。^^;
なるほど、ジェットエンジンって、そういう仕組みになっているんですね。
だとすると、ジェット機もプロペラ機と同様、プロベラの回転運動により
左旋回と右旋回で機体の挙動に違いが出るということになるのでしょうか?
by basashi (2007-01-25 21:58)
basashiさん
正解でした。おめでとうございます^^
>挙動に違い
これまた考えたこともありませんでした。
basashiさんが仰っているのはトルクの反作用のことでしょうか?F-16みたいに機体の中心線付近にエンジンがあれば、右ロールと左ロールで挙動に差が出そうかな?
ジャンボの場合は、機体のロール軸からうんと離れたところでグルグル回っているので、影響はないと予想します。そもそもジェットエンジンは構造上プロペラ機と比較してモーメントはそれほど大きくないと思います。
すべて想像ですが(^^;
詳しい人へるぷみー!
by とり (2007-01-27 08:19)
catenamasさん
nice! ありがとうございます。
by とり (2007-10-14 10:21)