SSブログ

バードストライク、FOD・5 [├雑談]

前記事の続きです。

ジェットエンジンの前のところでぐるぐる回っている巨大なファンと

圧縮用の羽根を回すパワーはどこからもってくるのか?

ということでした。

 

あ、それから今回の記事は思いっきりマニアックです。

普段ヒコーキのしくみなんて考えない健全な生活を送っておられる方は、

途中をすっ飛ばして最後のひと固まりだけ読んだ方が精神的によいかもしれません^^;

 

燃焼室で激しく燃焼したガスは後方から勢いよく噴き出して推力とするのですが、

その前に一仕事してから出てってもらいます。

この燃焼ガスで羽根車を回すのです。

ちょうど風車に息を吹きかけて回すのと同じ理屈です。

と、言葉で説明するより図の方が早いですね。

前記事と同じ図ですが、宜しければこちら↓で「タービン」と書かれている部分をご覧くださいませ。
Wiki:ジェット・エンジンの動作原理

このタービンで得た回転でファンや圧縮用の羽根を回します。

うまくできてますね~。

 

燃焼ガスの勢いを回転運動に変える羽根のことを「タービンブレード」と呼ぶのですが、

高温高圧のガスを浴びせられるので高温になりますし、非常に高速で回転しますから強い遠心力もかかります。

ものすごい負荷がかかっているわけです。

ブレードに吹き付けるガスの温度が高ければ高いほど熱効率が上がるため、燃費は向上し、パワーが上がります。

なので是非温度を上げたいところなのですが、闇雲に温度を上げると、とてもタービンブレードがもちません。

ブレードがもたないので仕方なくガスの温度を低く抑えている。というのが現状です。

具体的には、圧縮した空気のかなりの部分を燃焼室に送らずにバイパスして、燃焼ガスに混ぜて温度を下げています。

高温のままの方が熱効率が高いのに、わざわざ下げてしまうので、これはかなりエネルギーのロスになるのですが、

そのままではタービンブレードが溶けてしまいますから致し方ありません。 

 

ジェットエンジンの性能向上=タービンブレードの改良の歴史

と言っても過言でない程この部分がボトルネックになっていて、

その時代の技術レベルでブレードの性能を上げることができた分だけ温度を上げる。

ということが開発当初からずっと続いています。 

簡単に歴史を振り返りますと-

 

1939年 世界初のジェット機(He178)が飛行しました。 このエンジンのタービンに送られるガスの温度は700℃まで上げるのが精一杯。それでも数回の飛行でブレードが破損したそうです。

1952年 世界初のジェット旅客機(コメット)が就航。タービンブレードにニッケル合金を使用し、ガス温度を900℃まで上げることに成功。「ジェットは早いが桁違いに燃料を喰う」ことが航空会社にとって大きな懸念だったのですが、このブレード改良による燃費向上と当時燃料価格が安かったことなどが相まって、民間機として商業的にも成立しました。

1964年 B727就航。タービンブレードの超合金の改良で耐熱性、信頼性が更に向上。ガス温度は1,000℃を突破。燃費は格段に向上し、数千時間使用可能に。機の大ヒットに貢献しました。

1970年 B747就航。B747用タービンブレードは何度も改良を重ねることで徐々に性能を向上させました。タービンブレード内部、表面を空気で冷却することにより、耐熱温度は1,300℃を突破。使用時間は1万時間以上に。

 

このように、ジェットエンジンの開発は、ガスの温度を上げたいのに、

タービンブレードが耐えられないので上げられない。

→だから高温に耐えられるブレード開発を頑張る。

というのがずっと続いていて、エンジンメーカーはブレードの技術開発にしのぎを削っています。

環境問題、燃料高騰から、どの航空会社も燃費のよいエンジンを切実に求めています。

「燃費の良いエンジン」を作るための方法はいろいろあるのですが、

ブレードの改良は直接熱効率の改善につながるため燃費対策の本命。 

燃焼室の温度は部分的に1,600~2,000℃にもなるのですが、

これを1,300℃程度に下げるために圧縮空気のうち実に70~80%を費やしています。

まだまだのびしろがあります。

各エンジンメーカーはこの小さな部品に莫大な研究開発費を投じています。

 

旅客機は大抵複数のエンジンメーカーからエンジンを選べるようになっているのですが、

仮にあるメーカーがブレードの性能を飛躍的に向上させることに成功したならば、

それは燃費と信頼性が格段に優れたエンジン開発につながります。

世界中の航空会社はこぞってそのメーカーのエンジンを使おうとするでしょう。

すると開発に遅れをとった他メーカーのエンジンは見向きもされなくなる。

という事態になりかねません。

タービンブレードの研究開発はエンジンメーカーにとってまさに生命線。

ブレードの製造技術はメーカーにとって最高機密であるばかりでなく、

国家機密にすらなっています。

 

B747,B777等現在のジェットエンジンに使用されているブレードは、

耐熱性を高めるために表面をコーティングしたりする他、上述の通り内部に冷却用の空気が入る複雑な構造になっており、

更に表面にもたくさんの穴があって、ここから空気が噴き出し

高温の燃焼ガスからブレードを守る保護膜の役割をもたせています。

この「空気冷却」により耐熱温度を1,300℃以上と、大幅に引き上げることができたわけですが、

ブレードに使用している金属そのものの耐熱温度は1,000℃程度。

目詰まり、漏出等何らかの原因で空気冷却がうまく働かなくなってしまうとたちまち耐熱温度を超え、

ブレードが破断してしまいます。

そしてそういう事故は実際に何度も発生してきました。

 

タービンブレードに最も負荷がかかるのは飛行中最大の出力を発生させる離陸時。

例えばジャンボのエンジンの場合、

この時タービンブレードの周回速度は時速約2,000kmにも達します。

超高速で回転するため、たかだか数百グラムのブレード1つにかかる遠心力はなんと15トン。

ぎっしりと金属部品が詰まった中でそんな極限状態の高負荷運動をしているため、

たった1枚のブレードの破断がタービンブレード全体の損傷へとつなかってしまうことがあります。

 

実は限界ギリギリで使用するブレードには「劣化」という問題もあって、

メーカーが「1,300℃までなら大丈夫」と太鼓判を押し、キチンとその温度内で使用したとしても、

高温、高圧、強烈な遠心力に長時間曝されると、必ず劣化します。

劣化はブレードの伸び、亀裂となって表れます。

これを放置して使用し続けるとやがてブレードの破断につながります。

 

例えば新たに1,500℃まで耐えられるブレードが開発されたとして

余裕を見越してタービンに送られるガスの温度を1,450℃以下に設定したとすると、

劣化の発生を遅らせることができます。

つまりブレードの寿命が延び、信頼性が増します。

そしてさらに低く、1,400℃に抑えると、寿命は更に延びるという性質があります。

一例として、つくばで開発されたあるブレード用の金属は、1,100℃で1,000時間もつのですが、

1,050℃に抑えると、6,000時間もつようになったというデータがあります。

たった50℃の差ですが、寿命が6倍になるわけです。 
(コーティング、空気冷却などの細工を施していない素材のままのデータなので、この温度設定はすごい数字)

ガス温度の設定を1℃でも上げればそれだけ燃費が向上し、1℃下げると信頼性が向上します。

燃費と信頼性のどちらを取るか、バランスの問題になります。

 

日本の航空会社が大好きなアメリカ製旅客機-

アメリカの航空機の開発、製造を監督するFAA(連邦航空局)とアメリカの航空会社は、

このブレードの破断を深刻な問題とは見なしていません。

国、メーカー、航空会社、そして乗客も、米と日本ではヒコーキに対する見方が異なっており、 

米はブレードの信頼性より燃費の方に重きを置き、そちらをより強く求めているように個人的には感じます。

 

どちらに重きを置くかはともかくとして、今後も高温に耐えられるブレードの開発は続き、

それは間違いなくエンジン内部の更なる高温、高圧化につながることでしょう。

記事が長くなってしまったので割愛しますが、燃費向上には巨大なファンも有効で、

今後も小型旅客機の胴体と同じ位の太さの、大口を開けたエンジンを採用したヒコーキが続々と

飛び回ることになります(つまりエンジンFOD発生の可能性が高くなる)。

 

ここまで書いてきた通り、ジェットエンジンはその構造上、

ほんの些細なほころびが増幅して大きな破壊につながってしまう可能性があります。

エンジンが鳥を吸い込み、ぶつかった衝撃でファンの一部がごく僅かでも砕けると、

その金属片が大元となり、一瞬のうちに圧縮機のブレード、そしてタービンブレードを破壊しかねません。

鳥のぶつかった衝撃でどこも壊れずに済んだとしても、その衝撃で羽根の形が僅かでも変わってしまうと、

「サージング」という、これまたエンジンの破壊に至りかねない現象の元になるかもしれません。

 

航空会社は少しでも燃費の良いエンジンを求め、エンジンメーカーはその要望に応えるべく研究開発を続けています。

結果としてジェットエンジンは今後も高温、高圧、高出力の道を突き進むはずです。

そしてこれは、一旦エンジンに小さなトラブルが生じると、

それを食い止めるのがより困難になる危険性をはらんでいます。

エンジンが最も過酷な状態になり、余裕がなくなるのは離陸時。

そしてバードストライクが最も多く発生するのは離着陸時。

よりによってこの2つは離陸時に重なっています。 

ということで、たった1羽の鳥を吸い込んでしまっただけで大事になってしまうことがあるのでした。


撮影:アスランマリオさん

「タービンライン」:タービン位置を示すために引かれた赤いライン。

エンジンに重大な故障が発生した場合、ここから金属片が飛び散る可能性があることを警告し、

事故防止を目的としています。

*ヒコーキに乗るのが怖くなることばかり書いてしまったので、次はフォロー記事デス^^;


コメント(18)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

コメント 18

アスランマリオ

旅客機はタ-ビンラインの所の座席は窓がありませんよね、安全のため。
プロペラ機もプロペラのラインに赤線が引いてありますね。

ジェットエンジンの仕組みおさらい出来ました。写真も使っていただき有難うございました。
by アスランマリオ (2009-02-19 00:01) 

とり

皆様 コメント、nice! ありがとうございます。

今回(も)分かり難くてすみません~m(_ _)m

■アスランマリオさん
>座席
おお、それは知りませんでした。
自衛隊機位かと思ってたんですが、ちゃんと配慮されてるんですね~。
ありがとうございます。
それからお写真、快諾いただきありがとうございましたm(_ _)m

■xml_xslさん
nice! ありがとうございます。

■ぴーすけ君さん
nice! ありがとうございます。

■hiro78さん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-19 06:38) 

Qoo

とりさん凄いな~
興味深く読ませて頂きました
あのエンジンはきっとものすごく重いんですよね
で、いつも思うのですが・・・
あの薄っぺらい翼にあのエンジンがぶら下がって膨大な力を発揮する
それで翼は壊れないのかなって
当然壊れないのでしょうけど、素人の僕はそう言う事が心配になってしまいます
素人過ぎてごめんなさい(¨;)


by Qoo (2009-02-19 07:07) 

とり

■Qooさん
思いっきりマニアックな記事にお付き合いありがとうございました^^;
>あの薄っぺら
飛行中、ぐわんぐわんと揺れている翼を見ると、「ガンバレ~!ヽ(;゚Д゚)ノ」と応援したくなります。
お気持ちよく分かります^^ いくつか数字を並べてみますと・・・。
ジャンボのエンジンの重さは・・・調べたのですがわかりませんでしたm(_ _)m
多分1基7トン位で、推力は28トン位です。主翼付け根部分の厚みは2.2m。
考える限り最悪の事態を想定して十二分の強度をもたせ、実際に壊わして確認してます。
と、アタマで分かってても、すんごい揺れてると・・・^^;

■takemoviesさん
nice! ありがとうございます。

■gyaroさん
nice! ありがとうございます。

■kakasisannpoさん
nice! ありがとうございます。

■Travelerさん
nice! ありがとうございます。

■おすぷれい26さん
nice! ありがとうございます。

■たねさん
nice! ありがとうございます。

■miffyさん
nice! ありがとうございます。

■カンクリさん
nice! ありがとうございます。

■masaさん
nice! ありがとうございます。

■koumeさん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-20 07:04) 

こけもも:

ファントムのラインってそういう意味があったんですねー。なるほど。
by こけもも: (2009-02-20 11:26) 

OILMAN

こんにちは。
陸を走るクルマと違って飛行機はエンジン故障=大惨事となりかねないということで、エンジンの安全性がいかに求められるかが良くわかりました。
離陸時のエンジン音が好きな私は、とりさんと同じように離陸時に飛行機に対して「がんばれー」と心で応援しているんですが、今後はもっと気持ちをこめて応援したいと思います。


by OILMAN (2009-02-20 21:23) 

pica

最後まで読んだ私を誉めてやってください( ̄▽ ̄)b
by pica (2009-02-20 23:02) 

とり

■shinさん
nice! ありがとうございます。

■こけもも:さん
オイラもしばらくナゾでした^^

■seirenさん
nice! ありがとうございます。

■nyancoさん
nice! ありがとうございます。

■OILMANさん こんにちは。
路肩に寄せてJ○Fを呼ぶ。なんてできないですからね^^;

■picaさん
最後まで読んで頂けるとは思いもよりませんでした。
ありがとうございますm(_ _)m
picaさん偉い!ヽ( ゚∀゚)ノウヒョー!!
by とり (2009-02-21 06:32) 

コスト

ジェットエンジンの歴史=タービンブレードの歴史に近いものがありますね。
でもそのタービンブレードで数百グラムだったとは驚きです。
全然軽いんですね。

>50℃の差で寿命が6倍  
この辺は普通のエンジンやバッテリーでも
性能いっぱいに使わないほうが寿命が伸びるのと似てますが、
1100℃と1050℃って体感できないだけに、どれだけ違うだろうって思いますね^^
by コスト (2009-02-21 14:03) 

春分

50℃の差が大きい。なるほど、わかる気がします。
それに記事は、丁寧でわかりやすい話と思います。
by 春分 (2009-02-21 14:57) 

とり

■コストさん
たった数百グラムで70万~200万もするそうです。
金より高いそうです。

■春分さん
金属ってそういう性質なんですね~。
「わかりやすい」と言っていただくとホッとします。

■tooshibaさん
nice! ありがとうございます。

■ハイマンさん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-22 08:50) 

an-kazu

護衛艦などのガスタービンエンジンも、基本的には同じ原理ですよね?
by an-kazu (2009-02-22 09:59) 

くず

嗚呼… 素敵だ、ジェットエンジン… (惚れてしまいそう 〃▽〃)
ジェットエンジンの精巧なプラモデルとかあったら作ってみたいです。
内容の濃い記事だけに、どれも興味津々で読ませてもらったのですが、特に温度と信頼性(部品の寿命)の関係に深く関心を抱きました。

で、またまたなのですが、一つ疑問です f^_^;
ジェットエンジンの回転力の源がタービンによるものというのは解るのですが、では、エンジン停止状態から始動させる時には別の何かを使って回転させるのですよねぇ?
その辺りの仕組みはどうなってるんだろ (?_?)

by くず (2009-02-22 17:44) 

とり

■an-kazuさん
はい。同じです。そういえば船のガスタービンて、空気取り入れ口はドコでしょう??

■くずさん
・・・ジェットエンジンに惚れましたか(o ̄∇ ̄o)ニヤ
>始動
そこに目が行くところが流石本職ですね。いろいろあるらしいのですが、オイラ知らないので「ジャンボの場合」で話をすすめますね。
胴体の一番後ろ、尻尾の部分に小型エンジン積んでるんですがそのエンジンか、地上施設からジェットエンジンに圧縮空気を送ります。
ジェットエンジンには圧縮空気を軸回転に変える「スターター」という装置があります。
このスターターの軸回転でギアを介してエンジンのコンプレッサーを回します。
すると燃焼室に圧縮空気が流れるようになるので、点火→燃焼開始という感じです。こんな感じで如何でしょう?^^;
始動の音を聞いていると、最初「ウーーー」という音で始まって、
途中から「ゴーーー」とバーナーで火を焚いたような音に変わります。

後日、モロにくずさんの本職の記事アップしますよ。

■赤と青さん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-23 07:15) 

sak

飛行機ってすごい技術の結集なのですね。

by sak (2009-02-23 07:17) 

くず

またまた朝の忙しい時間に、お手間を取らせてしまってすみません。
今回も丁寧な解説をありがとうございました m(_ _)m
ふむふむ、なるほどです (b^-゜)
ますます興味が膨らんできましたよ o(^▽^)o
(嗚呼… もうこれは恋の予感…)

by くず (2009-02-23 12:43) 

とり

■sakさん
ホント、そうですね~。

■くずさん
意味通じたみたいですね。良かった~^^
オイラのエンジンの知識はここまでですので、後はくずさん自身が個人的に愛へと深めていってくださいね(o ̄∇ ̄o)

■yannさん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-24 21:29) 

とり

■甘党大王さん
nice! ありがとうございます。
by とり (2009-02-28 07:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0